母の出不精は凄まじく、遠くに出かけることを頑として拒みます。
母は幼い頃から乗り物酔いをするタイプ。
父の運転する自家用車なら快適で、お出かけも平気でしたが
亡くなってからはさっぱりです(没後25年以上になります)。
※バスに乗ってまちに出かけるのは大好き。近場は問題ありません。
母が2018年の大晦日に母が急性膵炎で緊急入院したときに
闘病する気を起こす一助となるように、ニンジンとして
「退院したら一緒に温泉に行こう!」と、温泉ムックをベッド脇に置いておきました。
結構喜んで眺めてくれて、思いのほか功を奏しました。
しかし退院してからも「行きたいねぇ…」とは言うものの
ついぞ出かけることなく今まで来てしまいました。
いざ「行きましょう!」となると、
母は「いや、忙しい」「いや、用事がある」となり
いまだに行けずじまいです。
私が沖縄好きなこともあり
母も「母さんも沖縄に行きたい」と言うことがあります。
「よっしゃ、行こう! 準備するね」と言うと、
「飛行機なんて絶対にイヤ。乗るもんか」と意見が全く変わります。
もちろん船で行くのは論外だし。
「生きているうちに、東京のフクの家を見たいわ」と言うので
「おいで、おいで。来月来る?」と言うと
「遠すぎるからイヤだ。飛行機無理。新幹線はもっと無理」とイヤイヤします。
もちろん、東京の私の自宅に、母がやって来たことは今まで一度もありません。
というか、私の結婚式にも来ていないしな、母さん。
思い出話をしながら昔を懐かしみ
「故郷のおうちに行きたいなぁ」「住んでいたあの町に行きたいなぁ」
「死ぬまでに一度でいいから行きたいなぁ」と涙ながらに言うので
懲りずにまた、なんとかして行かせてあげたいと画策する娘(私)。
帰省してきた兄に相談し、
レンタカーを借りて、兄が運転して、母の故郷に行くプランを立てました(私は運転免許を取得していません)。
「母さん、よかったね。
兄さんが母さんを、生まれたまちに連れて行ってくれるって!」
と言うと、ものすごい剣幕で「絶対イヤ。勝手なことしないで」。
「体がキツい」だの、
「おにいちゃんの運転では気が気じゃない」だの、
もう散々です。
その気になって張りきってしまった兄さんが気の毒すぎるからモウヤメテ…。
いつも、あまりに熱の入ったアピールなので、
ついこちらもなんとかしてあげたくなりますが
母の本意はそこにはないようです。
お口の気持ちよさにまかせて「行きたいなぁ」はたくさん言うけれど
行くという行動よりも
「行きたいなぁ」と言うことのほうが、好きなのかもしれません。
…まあ、わからいでもない。
夢を語っているだけのほうが楽しいときだってあるし。
あるいは、九州から東北まで、父と一緒に転勤してまわって
そのたび界隈の観光名所には出かけてきたから
お出かけは、その思い出だけでもう十分と思っているのかもしれません。
自分はこの場所=大好きなおうち にいて、遠くの場所を想うこと。
これこそが母にとっての最高なのかも。
それでたまに熱烈に「行きたいなぁ」「死ぬまでに一度でいいから」なんて情熱を傾ける…。
この場合、受け手の娘は「そだねー、行きたいねー、いいよねー」と、
深く同意して、決して行動は起こさないというのが
模範解答なのかもしれません。
乙女心、難しい…_| ̄|○
もしかすると、母にとっての故郷は、
行くものじゃなくて想うものなのかな。